俺はそのとき、天王寺区・動物園前のフェスティバルゲートのエレベーターに乗っていた。
エレベーターに乗っているのは俺だけだ。狭い内部には、7Fにある映画館のポスターが貼ってある。小泉今日子の「空中庭園」のものだ。
そのKYON2の顔アップのちょうど鼻の穴のところに、何か小さな黒っぽいものがくっついている。あぁよくあるね、ポスターの顔に鼻毛を書いたり眉毛を太くしたりするイタズラかな。
とほほえましく思いながらよく見たら・・・むむっ!
それはどう見ても、本物のハナクソだった。
しかもまだ乾ききっていない。リアル・ビッグ・ハナクソだった。
おそらく彼は一人でエレベーターに乗ったのだろう。そして何気なく鼻をほじる。奥まったところに触れるものがある。がんばればゴソッと取れそうな感触が指先に伝わる。これをそのまま放置するわけにはいかないだろう。彼は思い切って第一間接付近まで挿入し、鼻粘膜を傷つけないよう慎重に掘削する。やがて彼の鼻腔にえもいわれぬ快感が走り、深々と埋没していた指先が慎重に抜き取られる。やった、大きいのがとれたぞ。
かすかに微笑みながらふと前を見ると、そこにはKYON2の顔アップが空を見上げている。彼の眼前にさらされたKYON2の美しい鼻の穴。その部分にクギヅケになる彼の視線。
・・・つけるか、そこで。あなたは、つけますか?
この場合、おそらくKYON2が嫌いな人は自分のハナクソをそこにわざわざつけたりはしないだろう。マジックで鼻毛を書くいたずらは嫌いでもできる。しかしリアル・ハナクソにとって鼻の穴はホームである。しかも自分の鼻の穴にあったハナクソを他人の鼻の穴に移植するという行為は、その相手とある種の一体感をもたらすに違いない。
きっと彼は少なからずKYON2に好感を持っていたはずだ。
わかる気がしないでもない。
が、この場合、ハナクソをつけられるKYON2の気持ち、他人のハナクソを自分の鼻の穴に付着させているさまを不特定多数の人に見られて笑われるKYON2の気持ちが彼の頭からすっぽりと空け落ちているところに歪みがある。
すなわちこれはストーカー的行為ということになる。ハナクソ・ストーキングだ。
ハナクソ・ストーキング。
この行為は現代社会において、
おいて、お・・・
・・・。
いや、なんでもない・・・。
(2005年10月の日誌より)
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