ちょっとした旅ホーム
ゆるい川の町



(島根県出雲市平田)
2007.7.20〜21
 平成の大合併で出雲市に吸収された平田は、斐伊川の土砂が宍道湖を埋めてできた出雲平野の北に位置する小さな町だ。(ヤフー地図)
 安くてよさげな宿があるので、日が落ちてから泊まるためだけに来たのだが、夜中に近くの温泉施設まで歩いたら、落ち着いたまちなみで感じがいいじゃないの。
 それで翌朝、駅前のコンビニへパンを買いに行くついでに、しばらく散歩した。

そこだけポッカリと

 この町には、宍道湖の北岸を通って松江と出雲を結ぶ一畑電鉄というローカル私鉄が走っている。
 俺が泊まった宿はその「雲州平田」駅から北へ5分ほど歩いたところだが、そこからさらに北へぶらぶら歩くと道幅がキュッとすぼまり、古い建物が多くなる。

 道幅が狭まるところ

 やがて2つの橋が連続する場所に出た。平田船川と湯谷川が分岐するポイントだ。

 川というものは一般的に合流を重ねて太くなっていくものだが、下流では逆に分流して河口三角州を形成したりする。水田地帯ではさらに用水路がとられ、毛細血管状に広がってゆく。
 こういう川の流れはゆるく、水はたいてい濁っていて、田んぼのにおいがする。平田の川もそうだ。

 俺は上流の澄んだ川も好きだが、こういった下流で分流した濁り川も嫌いではない。俺が生まれた寝屋川も、住宅開発が進む前はそういう水路があちこちに流れるところだった。

 
(左)川岸ぎりぎりに家が立ち並ぶ   (右)平田船川の曲がり角

 平田船川は橋のすぐ下タプタプに水をたたえ、ゆるゆると流れている。家々はその川岸すれすれに立ち並んでいて、川と一体化して生きてきた町のありさまがそのまま残っている。

 橋を渡ると、さらに古いまちなみが現れた。この通りは「木綿街道」と名づけられているようで、内部見学ができる旧家もある。

 
(左)木綿街道と、べんがら塗りの壁   (右)なまこ壁の家や蔵がある

 
(左)内部見学のできる家。時間が早かったので入れず   (右)古い家ばっかり

 古い家と家の隙間の路地に「→平田船」と書いた看板があったので行ってみると、川に1艘の真新しい小舟が浮かんでいた。かつてこのあたりの川や田を行き来した平田船というものらしい。たぷたぷの水面に浮かんで低い橋の下をくぐるために、薄べったい造りになっている。

 復元された平田船

 どうやら観光用に復元されたようだが、これで水路を遊覧できるのかな。
 そういやこの川は平田船川というが、川に船の名がつけられているのは珍しい。普通は逆だ。

 さて、いいかげん腹が減ってきたので、駅横のコンビニへ行くためにUターンし、南へ向かった。
 駅の少し手前で、また小さな川を渡る。これも生活密着型の川で、なんともいえぬ風情だ(冒頭写真も)。

 
(左)駅前通の橋から   (右)路地の延長で出っ張りがあったり、川に降りる階段があったりする

 コンクリ固めなき大ざっぱな川岸が素晴らしい

 大都市周辺の川のように、人々と切り離されていない。濁った水でも、人間が川を嫌っていない。こういう光景を見ると心が和むのはなぜなのか。

 パンとコーヒーを買って宿へ戻った。

 
(左)さっきの川の近くのこんな路地を抜けて   (右)持田屋旅館に到着

 ちなみにこの持田屋旅館(素泊まり3000円)は、安宿の中ではトップクラスの快適宿だ。建物は古いが、すみずみまで磨き上げられていて気持ちがいい。部屋は10畳で広々しているし、近くの温泉施設「ゆらり」(源泉の釜風呂がナイス)とのタイアップサービスもある。おかみさんの人柄もよし。
 俺的には、北九州・門司港の「むつみ関門荘」と双璧をなす名宿だ。
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