・・・★  森樹 絹  ★・・・

第4回 性器の仕組み

  小学校高学年の男の子が不登校になった。「学校でトイレに行けない」というのがその理由だ。

 実は、彼、立っておしっこができないのである。
 家では洋式便座に座っておしっこをしており、学校の男子トイレでは大便用を使っていた。するとある日、友達に「またうんこしてるの?」と騒がれて……というわけ。
 学校でうんこができない男の子が多いという話は聞いたことがあったけど、おしっこができない、正確には、おしっこのやり方がわからないからできない、というのは初耳だった。

 彼のお母さんは、ペニスを持って、便器に向かってするんだよと彼に教えなかった。洋式で座ってさせるとトイレも汚れなくてすむし。尿道口を出すために包皮をちょっとめくるとか、おしっこをこぼさないような立ち位置とか、お母さん自身が知らなかったどころか、ペニスに触ること自体がいけないことだと思っていたという。
 触らないからお風呂でも洗わない。昔は銭湯などで幼い男の子をつれたお母さんに、どこかのおばさんが「めくって洗うねんで〜」なんて教えてあげる風景が見られたそうだけど。その時代、わざわざ性教育と言わなくても、性は伝え合うものだったのだ。

 せめて彼が亀頭包皮炎にでもなっていたら、泌尿器科を受診して、おしっこの仕方やペニスの洗い方を教わる機会があったかもしれないが、それだけ不潔にしてても亀頭包皮炎にはならず、そのかわりに不登校になってしまった。

 先の男の子は、身体をおろそかにすると、思わぬ事態が起こる極端な例かもしれないけど、身体をもっと知っていたら悩まなくてすむ問題のひとつに、「インサートでは感じない」という女性たちの悩みがある。

 「いく! とか、感じる! ってどんなふうになるのかわからないんです。彼に悪いから、無理にあえぎ声をだしてるけど、ほんとうはなんにも感じないし、インサート自体も痛くて嫌なんです」

 年代を問わず、いかに多くの女性がこう言うことか。感じる部分といえばクリトリスなのだが、自分で触ったことがないからそれがわからないし、「常識」として腟にペニスを入れたら気持ちがいいのだと信じきっていて、感じない自分は異常だと思ってしまう。
 でもちょっと考えたら、腟では感じないことくらいわかるのに。

 「腟がそんなに感じるところだったら、タンポン、入れられないですよ。一度、腟にご自分の指を入れてみて確かめてください。それから、性器を触ってみて、気持ちのいいところをさがしてみてください」

 相談員がそう答えると、タンポンに過剰反応する人がいて「タンポンは身体に悪い。取り忘れて腹膜炎になったらたいへん」という展開になったこともあるが、タンポンをあなどってはいけない。タンポンを使うには、腟の位置、つまり性器についてしっかり理解することと、自分の性器に触ることをクリアしなければならない。身体を知るこんな好機はないのだ。
 「月経血の処理はナプキンで」と画一的に教えてしまう学校の初潮教育や「タンポンを使うと女性が淫乱になる」みたいな類いの神話の影響で、タンポンがないがしろにされるのは実に残念だ。

 こんな話もある。ナプキンが気持ち悪くて、経血を吸ったナプキンをあちこちに捨ててしまう知的障害の女性がいた。支援者と保健婦が指導して、時間はかかったけれども彼女はタンポンを使えるようになった。すると、あんなにそわそわとしていた月経の期間も、落ち着いて作業ができるようになったという。
 タンポンが使えるほど自分の身体を知ったことで、彼女の生活の質が変わったのだ。

『いのちジャーナルessence』No.6(2000年11-12月号)より
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