| メ シ つ き 文 化 遺 産 | ||
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| 中国の渋~い大衆食堂 | ||
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老蘇拉麺店(老蘇飯店)
上海駅南口の向かい西側には、ほぼ似たような麺類+ナントカ飯(後述)の店が賑やかにずらっと並んでいる。日本の麺類+丼物の簡易食堂に相当すると思われる。 おいしくてリーズナブルではあるが、店構えや造りはどれも同じで、使われ方はファーストフード的だ。 さらに西へ数分歩くと、恒豊路の高架道路をくぐって突き当たりとなる。その左手に小さな食堂がポツンとたたずんでいる。 店の背後には蘇州河(呉淞江)が流れていて、川と恒豊路とに挟まれた立地。この店は、泊まっていたビエナホテルの窓から外を眺めていて見つけた。 恒豊路をくぐるとすぐ見える「老蘇飯店」という古い看板の下に「老蘇拉麺店」という新しいネオン看板がついている。駅前に並ぶ店群と同様、麺類+ナントカ飯に絞った店のようだ。 この店の少し右手のほうには「老蘇川菜館」という、老蘇飯店に比べるとやや大きめの料理店がある。こちらは火鍋など中華メニューの種類が多そうで、1~2組の客がいるのが見える。 いずれにせよ、駅前に並ぶ派手派手しい店たちとは異なり、場末のひなびた表情を見せている。早い話が俺好み。 どちらに入ろうかと思ったが、老蘇飯店は入り口の外に大鍋で湯が沸かされ、入ったところで大柄な30歳くらいの男が麺打ちをしているのが見えている。 その魅力的な光景にひかれて入店。 入口の湯釜バットに入った具材などが並ぶ狭い入口から中に入ると、からっぽの箱のように殺風景な空間に簡素なテーブルが五つくらい並んでいる。うーむ、俺好み。 麺を打っている男より年配のおやじが注文を聞きに来たので、まずはビールを頼んだら、横の棚から冷えていない青島ビールをひょいと取って、栓を抜いてポンと置く。 無機質な店内、ぬるいビール壁メニューを見てもよくわからない。テキトーに一番上の牛肉拉麺10元(約160円)と、最後のほうの酸辣土豆絲15元(約240円)をくれというと、おやじは「酸辣土豆絲はナントカ飯だよ」と説明してくれた。 なるほど、メニューの左2列が麺類、右1列がナントカ飯だとここで気づいた。
![]() (左)メニュー (右)ナントカ飯、読めんし意味わからん やってきた土豆絲のナントカ飯は、ジャガイモ細切りと唐辛子の炒め物を皿盛りのご飯にかけたもの。けっこう辛いがウマイ。香菜入りのスープがついてきた。 ナントカ飯とは皿飯のオカズがけなのね。それにしても漢字が読めないので、以後「ひつじめし」と呼ぶことにした。(注:後日正解が判明した。文末に付記) 酸辣土豆絲のナントカ飯15元牛肉拉麺は注文してから大男が生地を伸ばして麺を打ち、外の大鍋で湯がいて具をのせて出てきた。その工程のあざやかですばやいこと。さすが本場! 削ったローストビーフみたいなんと香菜がたっぷり入っていて、スープは非常にあっさりしている。土豆絲についてきたスープよりあっさり。 テーブルにペットボトルがあり黒酢が入っているので、それを少しかけて食べた。 ![]() (左)麺を打っている (右)牛肉拉麺10元 あとから入ってきたオヤジ客もこれを注文したが、香菜が苦手なようで、ポイポイと全部テーブルに出しながら食っている。 麺打ちを終えた大男は一番奥のテーブルに場所を移し、大きなチャーシューの固まりを薄切りにし始めた。 それをぼんやり眺めながら、ぬるい青島ビールを飲んでいると、食の大国・中国の扉が開いたような気がした。全部で30元。ということはビールは5元(約80円)。 ![]() (左)テーブルの辛子 (右)ビエナホテルの窓からこの店が見える(赤い矢印) 帰りがけに、何時までやってるのかとおやじに聞くと、「24」という数字が聞き取れた。そうか24時までやってるのね、と思ったが、ホテルの窓から見ていたら一晩中明かりがついていた。 24時間営業、ということだったようだ。(2016年3月) ※中国語翻訳家の森口哲也さんに、「ひつじめし」の正しい読み方と、日本語で該当する漢字を教えていただきました。発音は「がいじゃおふぁん」。1字目は「蓋」で「覆いかぶせる」という意味。2文字目は日本語では使わない字で繁体字だと「さんずい+堯」、この場合は「ふりかける」という意味。直訳すれば「ぶっかけ飯」というような意味になるそうです。 「炒め物や煮込み料理をごはんにぶっかけて食べるのは中国の食堂では定番だと思います。学食や社食でもよくあります。その意味で日本の丼物よりもバリエーションの広がりが大きいと思います」 とのこと。森口さん感謝! |
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好運来小吃店
蘇州の地下鉄1号線「臨頓路」駅から徒歩5~6分。昔ながらの渋い家が並ぶ鈕家巷という通りの北側にある小さな店。 そのまままっすぐ行けば、世界遺産の平江運河に出る。 11:30ごろ入店したら開店まもない時間だったようす。誰もいない店内で、真っ赤なセーターを着た南方系的な顔立ちのおばちゃんが一人ゴソゴソと食材を物色している。 テーブル二つだけだが、あとで2階席もあることがわかる。 座ると、おばちゃんがフニャフニャのプラコップで熱いお湯を出してくれた。こんなフニャフニャのコップに熱いもん入れるか、しかもお湯て! ![]() (左)食材を物色するおばちゃん (右)こぼさぬよう持つのは慣れが必要 壁メニューはスッキリ見やすいが、一番上に「四季・伏美」「台湾原装迸口」などと書かれている。これは料理のジャンル区分なのか? 右列は台湾料理? そういや顔立ちからして、おばちゃんは台湾先住民系なのかも。 まーわからんけど、どれもウマそうな料理名が30種類ほども並んでいる中から、ポピュラーな料理、家常豆腐8元(約130円)と木耳炒蛋10元(約160円)を注文した。 すると、おばちゃんは客席の一角(俺の席の横)に置かれた学習机みたいな台の上でニンジンとピーマンを刻み始めた。 そこかいな・・・やがてどこからともなく、よそいきみたいなパリッとした黒いジャケットを着た50代の男があらわれ、入口脇のスキマみたいに狭い料理場で中華鍋を振って料理を作り始めた。 その服装で中華鍋を振るか!? 汁飛んでおかーちゃんに怒られへんのんか? やがて家常豆腐ができた。でも皿の準備ができてない。水道とゴミ箱は店の外にある。外の水道で皿をゆすぎ、黒ジャケおやじはそのまま拭きもせずに家常豆腐を盛りつけた。 だがけっこうな量で全部は乗り切らない。残りは自分で食うのか? 鍋から豆腐が一つテーブルにこぼれた。このアバウトなムードからして、もしかしてそれもつまんで皿に乗せるかと思ったが、あとで拾って外のゴミ箱に捨てていた。 そして家常豆腐が運ばれてきた。おぉ、これは…うまい! ドンピシャや。 続いて木耳炒蛋も来た。黒キクラゲたっぷり。 ![]() (左)家常豆腐(揚げ豆腐と野菜の炒めもの) (右)木耳炒蛋(キクラゲと玉子の炒りつけ) 日本の「王将」でも食えるようなフツーの中国家庭料理だが、炒め具合、味付け、甘み辛みトロみ、完全に文句なし。 俺は学生時代ホテルの中華レストランで4年間バイトしたが、長年修業した料理長が1000円くらいで出していたのと比べてもなんら遜色ない。 それを料理人とは思えない格好の黒ジャケおやじが、こんな小さな店のスキマみたいな調理場で、100円やそこらでチョイチョイとなぁ。さすがは中国人というべきなのか。 ビール(冷えてない)も注文し、うまいなぁ、うまいぞぉ……と幸せな昼飯だ。 途中で男客3~4人が来て、2階へ上がっていった。黒ジャケおやじの知り合いのようだ。何かの会合だろうか。 黒ジャケは彼らの料理もどんどん作り、あとから来た客がそれを2階に運んでいく。 飲み食いしながら、開け放たれた表の戸からフト店の外を見ると、向かいに激渋理髪店があって、白衣の理髪師が腕を振るっているのが見える。その手前で、バイクにまたがったまま静止した男が、何をするでもなくじっとこちらの店を覗き込んでいる。 それらの光景が、まるで昔の記録映画を見るようだ。 しかし目の前のウマウマ料理は現実だ。 どっちかがマボロシか? なんやもう感覚がおかしな感じになってくるが、とにかくオモロイ。 ![]() (左)向かいの激渋理髪店 (右)鈕家巷のまちなみと好運来小吃店 ビールも入れて全部で22元(約350円)・・・ヤッス~。もう毎日この店でもエエな。 (2016年3月) ※中国語翻訳家の森口哲也さんに後日また教えていただきました。「四季・伏美」「台湾原装迸口」はそれぞれ日本の漢字だと「四季・優美」(台湾の健康食品ブランド)、「台湾原装進口」=「台湾で包装されたまま輸入された商品」という意味とのこと。つまり料理のジャンルではなく、台湾の食品会社のロゴとキャッチだったようです。この食堂は壁のメニュー表だけが不釣合にきれいだったので、おそらくはこの台湾の会社が食材を買ってもらうかわりにメニュー表を作って提供したのだと思われます。 |
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栄陽楼
蘇州、山塘街。白楽天が作った運河に沿って残る古いまちなみが世界遺産に登録されている。らしい。 朝の散歩がてら来てみたが、一歩足を踏み入れた瞬間、エライことになってしまった。 ずっとこんな調子なのか、たまたまこの日だけなのかはわからないが、とにかく狭い通り全体が市場になっており、買い物の人民がここだけで2億人ほどひしめいている。 前の人と人の間に自分の体をねじ込み、他人の足も荷物も踏んづけ、自分さえよければいい、自分さえ前に進めればいいんだと鬼の形相で全力でぶつかっていかなければ、1歩たりとも前に進めない。かといってここから逃れることもできない。 世界遺産らしいけど観光客などいない。観光、なんていうヤワな世界ではないのだ。 わずかな距離をとてつもない時間をかけて進み、そろそろ人間界とオサラバしたい心情にとり付かれてきた頃、渋い飲食店が現れた。店先で団子や饅頭みたいなのを売っているが、中は麺類食堂のようだ。 ![]() (左)とにかく逃げ込もう (右)入口の横で団子などを売っている ![]() (左)うまそうだ (右)小さな肉まんみたいなもの 中に入ると左に券売ブースがあって、おばちゃんがいる。ガラスに赤字でメニューが書かれている。 雪菜麺5.50元(約90円)、辣醤麺5.50元、香茹麺5.50元、炒肉麺6.50元……どれも安いな。ちょっと張り込んで肉絲麺8.00元(約130円)にしよう。 お金を払うと、金属札の食券をくれた。それを店の一番奥の厨房へ持って行くシステムのようだ。 右手では焼小籠包などを売っていて持ち帰りができる。 ![]() (左)食券売り場 (右)券を買って奥に進んで振り返る 店内はかなりの広さがあり、ざっと13~14くらいのテーブルがあって、買い物客らしきおっちゃんおばちゃんたちで賑わっている。 ![]() (左)食べている人々 (右)ここに券を出して料理をもらう 厨房には3人のおばちゃんがおり、3つくらいの大鍋がもうもうと湯気を立てている。窓から差し込む光が湯気を照らし、美しさを感じる。 前に金属札を出して列に並ぶ。次々に麺が茹でられる光景を眺めながら、自分の麺ができてくるのを待つ喜び。 「千と千尋」で、食べ過ぎて豚になった両親を思い出した。 美しい光景やがて仕上がった麺をもらって、開いた席を探して座る。表通りに面した隅の席に座ったら、なんとテーブルの丼を置く位置がえぐれて、まるで丼をセットするために彫ったかのようになっている。 ![]() (左)えぐれたテーブル、こんなん初めて見た (右)肉絲麺8元 スープは比較的薄味だが、しっかりとコクがある。細い麺は日本の2玉分くらいあり、日本の中華麺とはまったく異なる打ちたて感があって、たいへんうまい。 とり付かれたようにズルズルと一気に食って、あっという間に腹パンパン。 喧騒に満ちた山塘街で、勢いよく食った朝飯だった。ここにたどり着くのに少々疲れるけど、この賑わい、このボリューム、このうまさ、この安さ……日本ではありえない魅力に満ちている。 さて、ここから抜け出すのがまた大仕事だぞ…。(2016年3月) ※森口哲也さん、簡体字ご指導感謝! |
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食坊麦伍園
蘇州の町を南へ西へ、たいがい歩き疲れて19:00ごろ。 はっきりした場所は忘れたのだが、たぶん地図の交差点の北東角だったと記憶する。 外に面して厨房があり、湯気が立つ中で店の人が働いている。その様子と、張り紙メニューの「粥」にひかれて入店。 ![]() (左)厨房側。電信柱の左側が店 (右)チープな店内 店内は簡素の一言に尽きる。おとなしい感じの50代後半の夫婦がやっている。 壁の上のほうにメニューが出ているが、どれも異様に安い。例によってよくわからんが、荷包蛋1.5元(約24円)て何やねん? 紅豆棗子粥3.5元(約56円)、これはアズキ粥にナツメだろう。紅豆が「ホンドウ」というところまでは読めるので、注文を聞きに来たおやじに「ホンドウ…」と言って指さして注文。しかし安いなあ。 もひとつ、咸肉菜飯+排骨湯10元(160円)もなんとか読めたので注文。 ![]() (左)紅豆棗子粥3.5元 (右)咸肉菜飯+排骨湯10元 料理はすぐに来た。紅豆粥はアズキがゆ、味付けなしの素朴な風味。呑みすぎにはちょうどええ感じ。でもこれで腹はたいしてふくらまない。 咸肉菜飯は塩漬け肉の小ブロック少々と菜っぱ飯。質素な食事だが、たっぷりある。 男一人客がポツポツ来ては、モソモソ黙って食っている。 いやーしかし、とにかく安い。コンビニの嗜好品などに比べて、米のめしが圧倒的に安い。 中国の街なかの食堂はどこも安いが、その中でもここは貧乏人のための食堂という感じで、ダントツに安かった。 (2016年3月) |
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阿華家常小吃
無錫の中心部を貫く運河は、世界遺産「大運河」の一部を構成している。 地下鉄「南禅寺」駅から運河沿いの観光ストリートを2kmほど歩くと、二つの運河が交差するところに清名橋という時代がかった石橋がある。 コジャレた観光ゾーンはほぼそこまで。その先も運河沿いの道だけは整備されているものの、周囲は言うならばゴミの町だ。町の中央に巨大なゴミ捨て場があり、その周辺で貧しい人々がゴミにへばりつくように暮らしている。 清名橋のたもとは小さな広場になっていて、ここが観光ゾーンとゴミゾーンの境目になっている。観光ゾーン側には運河文化館のような立派な建物があり、ゴミゾーン側には古い長屋店舗が並んでいる。 それら店舗も一見、観光エリア的な最低限の統一意匠が外観の一部に施されているが、売ってるものは観光とは無縁の安っぽい生活雑貨など。 世界遺産に面するには汚らしいので、当局予算で表面だけ飾られたことが一目瞭然だ。 長屋店舗の統一意匠午後3時、いいかげん歩き疲れて腹が減った。 長屋店舗の一つ(上写真中央)に、「客飯 面 餛飩」の文字を掲げた小さな食堂がある。 店の前で、キャップをかぶりエプロンをした60がらみのオヤジが険しい表情で仁王立ちになっている。近づいていくとオヤジは睨みつけてくるが、ジェスチャーで何か食べたいことを伝えて入店。 テーブル3つのみの狭い店で、奥に薄暗い厨房がある。 ![]() (左)四畳半ほど (右)奥の厨房のほうが広いかも 店は異様に狭いが、壁のメニューは多彩だ。 炒菜類は麻婆豆腐に始まって10~15元。肉類は回鍋肉20元など。その他「水産魚類」「蔬菜類」「湯類」「丼物」「特色菜」「麺類」など、ざっと60種類近い。まじか。オヤジは意外に達人なのかもしれない。 オヤジが麺の束を手に持って見せるので、それそれ!という感じでうなづく。麺類は6元(約100円)からとこれまた安い。 麺が茹で上がると、オヤジは厨房へ来いと手招きする。そこには麺類のトッピングと思われるオカズのボウルが8つくらい並んでいた。 オヤジはその一つの団子みたいなのを指して、何か言っている。首をかしげていると、紙切れに「無錫名産」みたいな文字を書いてくれた。 なので、その団子と干豆腐&青梗菜とを指さして載せてもらう。 ビールも頼むと、冷えてないのが箱から出てきた。銘柄は「雪花」だが…。 無錫名産肉団子と青菜の麺この麺は8元だったか10元だったかな。 スープにこくがあってじつにウマイ。五臓六腑にしみわたるねー。麺は細くてたっぷり。肉団子は甘みがあった。 いかつい感じのオヤジだが、鼻をかもうとするとティッシュをスッと出してくれたり、かみ終わるとゴミ箱をスッと寄せてくれたりと、いろいろ気を使ってくれるいい人物だった。オヤジなりに観光客をもてなそうとしてくれたのだろう。 また行って、オヤジの多彩なメニューを食べてみたいけど…。 店内からの清名橋前広場と運河文化館(2016年3月) |
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