| メ シ つ き 文 化 遺 産 | ||
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| 韓国の渋~い大衆食堂 | ||
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| シルビ チプ(実費屋)
思い出すだけで心臓の鼓動が高まる食い物というものが存在する。 釜山のチュクミグイ(イイダコの炭火焼)……ああ~もう、たまらん! 「韓国酒場紀行」という本で写真を見ただけでヤラレた。もう空港からリュックしょって弾丸的に直行や。 地下鉄中央(jungang)駅下車、1番出口から徒歩っていうかもうほとんど小走りで2~3分くらい。狭い路地に2軒のチュクミ屋さんが並んでいる。店先に七輪みたいなん出して焼いてる焼いてる、ええにおいが漂いまくっとるで。 どっちがええんかワカランけどとりあえず手前の店がここ。 外観はディープだが中はきれいで広い。テーブル席が10以上ある。 3人くらい給仕のおばさんがいる。壁のメニューにチュクミ以外のものもいろいろ書いてあるが、どうせワカランし、すばやくチュクミグイ12000w(約1200円)とセンタク(生濁=釜山の生マッコリ)1本3000w(約300円)を注文した。 ![]() (左)店内ゆったり (右)メニュー。ビール350円、チュクミ定食やプルコギ定食600円 チュクミが来る前に、例によってマッコリにいろいろつきだしがついてくる。まずは大根のスルクッ、白子入り。あともやしナムルとかなんやら。でも一般に釜山はそれほど大量には出てこない。 そして来ましたチュクミちゃん。脇にマヨネーズがついている。 どれどれ……かっら~~! うんもぁ~~! こうばしひ~~! いやこれマジで予想してた以上にうまいわ。 エゴマの葉がどっさり出てきて、これに包んで食べるとまたうまい。俺もうコレでええ。俺はこれや。なんか知らんけど決めた。チュクミ松本でOK。 ![]() (左)つきだし群 (右)チュクミグイ いや~、ウマイわカライわでセンタク進む進む。もう1ボトル追加や。 入ったとき(17時前)は1組くらいしか客がいなかったが、食ってるうちに満席になった。若い客も多く、デートに使っている。もしかしたら俺が最年長かもしれん。 あかん、こうやって思い出すだけでホンマあかん。恋しいよチュクミちゃん~。 帰国後調べたら、この店は40年続いてる老舗らしい。(2016年3月) |
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トゥンボ チプ
この上で紹介したシルビチプの隣に、もう1軒同じようなチュクミ食堂が並んでいる。気になって日本に帰れないので、帰国前の仕上げにその店にやって来た。 ![]() (左)緑の看板の向こうがシルピチプ (右)そして手前がトゥンボチプ ![]() (左)入口。右側の炭火でチュクミを焼いている (右)入口にある顔。店主か? トゥンボをあとで調べたら「デブ」のことらしい(辞書には「無愛想」とも出てくる)。それは右上写真のおばちゃんがデブなのか、この店に来たらデブになるよいう意味なのか、あるいはよく肥えた食材だよという意味なのか(トゥンボ・テジカルビという店などはその意味だろう)は知らん。 とにかくチュクミだよチュクミが食いたい。 店の周囲には炭焼きチュクミのいい香りが漂っている。もうたまらん。 なだれ込むような勢いで中に入ると、店内はシルビチプより若干レトロな感じ。 数人の女性スタッフがいるが、茶髪でパンチパーマの無表情なおばちゃんが仕切っている。もしや表の似顔絵はオヌシか、そしてオヌシがトゥンボなのか。 お昼どき、OLグループなども来ている。 とにかく吼えるような勢いで「チュクミグイ ジュセヨ! マッコルリド ジュセヨ!」と叫ぶ。チュクミグイ12000ウォン(約1200円)、マッコリ1ボトル3000ウォン。 いい感じにレトロな店内まずは例によってパンチャン。豆をミキサーにかけたようなドロッとしたスープが最初にきた。そして次に来たサバキムチ煮がうまいぜチキショー! 30代の女性店員が、となりの女性OLグループにチュクミを運んで行った。するとさっきのパンチパーマおばちゃんが「そこの日本人が先だろ!」と叱っている。おばちゃん恐いけど公平で有能だ。 そしてやって来ましたよ愛しのチュクミちゃん。とてもとても香ばしいアルネ。 ![]() (左)たまらん! (右)左下のドロッとしたのが豆のスープ 隣のシルビチプはチュクミにマヨが添えられていたが、ここではマヨはなし。シルビはエゴマの葉だったが、ここは白菜だ。 そして幸せはポン酢しょうゆではない。チュクミを食えることこそが幸せだ。 OLグループは、4人全員コンナムルパプ(もやしご飯)3000ウォンを頼んで、チュクミ一人分をシェアしている。 まねしてコンナムルパプを頼んだ。おじやっぽい。そして新たにパンチャンとして、納豆入りの味噌煮汁みたいなのや水キムチなどが出てきた。 コンナムルパプ3000ウォンコンナムルパプがまたチュクミの辛さに合うではないか。マンセー! そんなわけで俺は今後、チュクミ松本として生きていくことを決めた。(2016年3月) |
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ミリャン チプ(密陽屋)
賑やかなプビョン市場の北西端あたりに、一目見て気になる店がある。南北アーケードの入口角地に位置しているので、北と西の2面から出入りできる。 ミリャン(密陽)とは慶尚南道の内陸部にある町の名前で、テジクッパプ(豚粥)が名物らしい。 店頭で豚肉を切ったり茹でたりしていて豪快だ。ゆで豚を買って帰る客も多い。 ![]() (左)北側入口付近 (右)まず薬味が来る 中に入るとテーブル6つか7つと、座敷2卓ほど。 2014年に来たときは晩飯に看板商品のテジクッパプ6000ウォン(約600円)を食った。それが激しくうまかったので再訪した。今回は朝風呂後の朝飯だ。 せっせと働き者のおばちゃんらの一人が注文を聞きに来てくれる。今年はワンランク上げて、ネジャンクッパプ7000ウォンとやらを注文した。 ![]() (左)テーブル上に壺がある (右)開けたらキムチ食い放題 うんまうまのキムチなどをツマミにビールを飲んでいると、クッパプがやって来る。 これこれ、すばらしきビジュアル。そしてお肉は……おや、すべてモツ系だ。ネジャン=内臓、なのであった。 ふつうのテジクッパプには肉と内臓が入っている。内臓だけのネジャンクッパプのほうが高いとはこれいかに。きっと貴重な部位が入っているのだろう。 ![]() (左)テジクッパプ (右)ネジャンクッパプ 香しきダシが出ているが、汁は味付けされておらず、ついてくる大量のアミ塩漬けやニラキムチなどで好みの味に整える。ニンニクもゴロンゴロンと大量投入。 そして銀の匙で内臓とコメをすくい、口に放り込む。おぅ、この弾力、それでいてプツンと切れる憎いやつ。モグモグ、ハフハフ、ズズー……。 無口&夢中。いやーこれが肉食よ肉食。 合間に、青唐辛子や生タマネギに味噌をつけてかじる。かっら~。ハフハフ、ズズー。 朝からニンニクもごりごりと音を立ててガバ食い。ここじゃ気にする必要なし。キムチうまし。みなうまし。 腹いっぱいの大満足。名店である。(2016年3月) |
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ウナス シルビ シッタン(天の川 実費食堂)
国際市場とチュング路を挟んで西側、富平市場の南寄り33番ギルに南面している。 「シルビ」とは漢字で「実費」、つまり原価で売ってるほど安い店ということらしい。 のぞいてたら、中でメシを食ってる客のオヤジが「プルコギがおいしいよ」とけっこう上手な日本語で声をかけてくる。 入って左にオープンキッチンな厨房、右側にテーブルが3つ並び、奥に別室(座敷?)がある。小奇麗に整えられ、おだやかで人の良さげな感じの夫婦が切り盛りしている。 さっき呼び込んだ客のオヤジは、自らオススメのプルコギを食っている。「日本語上手ですね」と言うと、後ろのテーブルの客のほうが上手だという。 後ろのテーブルには60代のオヤジが30歳くらいの女性を連れて座っていた。岐阜に住んでいる在日の人で、女性はソウルに住んでいる。どういう関係か知らんけど、プサンでちょくちょく会って、この近くのホテルに泊まっているとのこと。あっそ。 その人に「ウナスって、どういう意味ですかね?」と聞くと、「漢字では銀河水だよ」とのこと。 ![]() (左)棚の向こうが厨房 (右)奥にも客室がある パンチャンで出てきたキムチ、イカキムチがうまい! プサンのイカは日本海のイカやもんなあ。 硬い生の根菜みたいなのがあったので何かと聞くと「コラビ」という。ははあ、ヨーロッパ野菜のコールラビやな。 ![]() (左)価格表、1000ウォン単位 (右)手前がコラビ 呼び込みオヤジがやたらとプルコギを押してくるので、素直に従ってそれを注文した。野菜包みがセットで出てきて山盛り10000ウォン(約1000円)。 ウーム、こいつは確かにうまいわ! チシャにニンニクと青とうがらしをぶち込み、丸めてモシャモシャと頬張る。肉の旨みがジュワ~。そしてビールからマッコリへの旅路。 プルコギ、ドーン!お会計は、ビール(カス)1本とマッコリ(センタク)1本を合わせて17000ウォン(約1700円)だった。カス4000ウォン、センタク3000ウォンだろう。 センタク(生濁)はプサンで一番ポピュラーな生マッコリで、コンビニでなら1本1000ウォンちょいで買える。賞味期限が短いため日本ではあまりお目にかからないが、たまに置いてる神戸の韓国料理屋ではたいてい1500円だ(韓国食材店で750円くらい)。 帰るとき、呼び込んだ客のおやじが外まで見送ってくれた。 店の人が真面目でおとなしいぶん、客が一生懸命な店。愛されているのね。 (2016年3月) ※銀河水=天の川、のことだそうです。森口さん感謝! |
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トワシッタン ★(また来て食堂)
プサンの南浦洞から西側の山裾まで歩き、見つけた銭湯で朝風呂。そのあとぶらぶら坂を下りて、トソン(土城)駅近くでこの食堂に遭遇した。 一目見て、これは!と思った。少し開いた窓から中が見える。渋いぞ! 隣にも「ミナ屋」という食堂があるが、やってない様子。 中に入ると、すごく狭い。左側がオープンキッチンで、赤いエプロンのおかみさんがいる。 右にテーブルが2つあるが1つは物がいっぱい置かれていて使えない。奥に座敷があり、オヤジがテレビを見ている。 一つだけの使えるテーブルに座ったけど、ここ天井がえらい低いな! ![]() (左)手前の白いテーブルに座った。厨房モロ出し (右)奥の座敷 思わず自撮り。髪の毛が天井に触っている壁にメニューがあるが値段は書かれていない。どうせ見てもようわからんので、いつものようにテキトーにチョギメウンタンとやらを注文した。 サバが焼かれていいにおい。誰の料理やろ、奥のおっちゃんのメシかと思ったら、こちらのパンチャンだった。 そのあと順次いろんなパンチャンが出てきて、ついには目玉焼きまで出てきた。 それにしても厨房がむきだしで、座っているテーブルの横1メートルでおかみさんが料理を作るさまをじっくりと観察できるのがおもしろい。 使い込まれて黒光りするコンロは、どこにでも鍋を置けるようになっていて、置く場所によって火力を調節できる。たくさんのパンチャンと料理をいっぺんに作るのに適した構造なのだろう。 ![]() (左)メニュー (右)置く位置によって火力を調節できる ![]() (左)次々に出てくるパンチャン (右)最後にコレきた ビールありますかと聞くと「ある」と言う。 でもなかなか出てこないので、数分後に「あのー、ビールは……」と言うと、「もうちょっと待ってくれ」とおっしゃる。 さらに待っていると、どっかへ出かけてたおっちゃんがビール瓶1本を持って帰ってきた。買いに行っとったんかい! これは「ある」とは言わないのでは……。 おやじは、おかみさんに「遅い!」とかなんとか文句を言われながら、買ってきたビール瓶をそのまま俺のテーブルに置き、栓抜きと、きれいなコップを念入りに選んでもってきた。 そしておやじはまた奥の座敷に戻ってテレビの続きを見始めた。 なんせ風呂上がりである。待たされたビールがことのほかうまい。 それを、こんな秘密めいた小さな空間で、すぐ横でおかみさんが俺のために次々と作ってくれるおつまみでグイッとやる贅沢感。 窓から差し込んでコンロを照らす光。料理の湯気がキラキラときらめいている。 なにやら人生の奇跡を感じさせられるではないか。 ![]() (左)むきだしの厨房 (右)韓国のオカモチ 俺が「この、店は、雰囲気が……」とたどたどしい韓国語で話しかけると、おかみさんはニッコリ笑って「チョアヨ?(いいです?)」と後を継いでくれた。 そして料理中の写真を撮らせてくれた。 やがて出てきた「チョギメウンタン」、見るからに辛そう。ここでフト思い出したが、メウンは辛いという意味であったわいハッハッハ。 チョギは後で調べたら魚のイシモチのことで、これが2匹入っている。豆腐も入っている。 言うまでもなく、口内の火事を思わせるような激辛料理であった。しかし、こんなに辛いのにウマイ。それが不思議やわ。 一口で舌がマヒするメウンタン飯に汁をしみこませて完食。風呂あがりなのに汗びっしょりになった。 会計は、たぶんメウンタン6000ウォン、ビール3000ウォン(10ウォン=1円)。 料理単体なら日本と大差ないかもしれんが、パンチャンの豪華さを考えると相当安い。 翌日も前を通ったら、おやじはオカモチを持って忙しそうに出入りしていた。おやじは出前係のようだ。 帰国後、トワが「また来て」の意味と知った。必ず再訪したい。(2016年3月) |
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サゲチョル シッタン(四季節食堂)
辺山半島の山に登るために、扶安という田舎町に来た。 バスターミナルの裏手に「モテルカリフォルニア」などビカビカ系のモーテルがいくつかあるが、その中でもいちばんボロい「コブク(亀)モテル」の真ん前に、渋い面もちの食堂がある。 この食堂を見た瞬間、亀モテルに泊まることを決めた。 わかるでしょう激渋食堂が好きな人なら小さな戸を開けたら食堂、というより普通の家みたいな感じだった。 狭いタタキに靴が脱がれている。テーブル席はなく、安っぽいフローリング床に4人×2本をくっつけた長卓が2列。 台所の床で食事するようなスタイルだ。 奥の列でこの食堂の家族らしき集団6~7人が団らんしている。 いっせいに集まる驚いたような注目。腰痛持ちの俺はベタ座りはキツイのだが、しかしもう後には引けない。 「食事、いいですか?」 と聞くと、立って料理していたおばちゃんが元気よく「ここへどうぞ!」と手招きし、家族団らんの横の席を指した。 家族団らんと同じ長卓だが、手前のほうは壁を背に家族が占めているので、示された奥の席へ行けない。仕方がないので長卓をまたいで座った。 日本ではありえないが、ま、韓国やし何でもありやろ。 壁にメニューがある。○○タンが多く、あとは何かわからん。 「魚、何かありますか?」とおばちゃんに尋ねたら、 「魚ならナニヤラがいいわ、ナニヤラにしなさい、ねっ」 みたいな感じのことを言う。ほなそれ、という感じで頼んで、キムチやナムルをつまみながらビールを飲んでいると、しばらくして辛そうな鍋物がきた。しかもすごい量。 これは絶対からい掘り返すと、タチウオの切り身がたくさんと、ジャガイモと大根とネギが煮込まれている。 隣にいたオヤジに「この料理の名前は何ですか?」と聞くと、「カルチ」だという。あとで調べたらカルチはタチウオのことだった。 例によって大汗をかきながらビールとご飯で流し込む。 パンチャンも次々にやってきた。小振りなアジのような魚の焼いたやつはチョギだという。あとで調べたらイシモチだった。 否応なしに団らん参加料理を作ってくれるおばちゃんも、隣のグループで一緒に飲んでいる。 「みなさんは家族ですか?」と聞くと、そうだという。 パンチャンで出てきた納豆の味噌煮みたいなのがうまい。 「これはナットウですか?」 と聞くと、「ナットウだ」と言う。 「韓国人もナットウを食べますか?」 「食べるよ」 うまいと言うと、おかわりが来た。ついでにチョギなども追加された。 納豆と豆腐とエノキと大根の煮物そして根っこみたいな生野菜。これはトドクだという。あとで調べたらツルニンジンだった(聞いた食材はあとで調べるために全部お手拭き紙にハングルで書いてもらう)。 隣のおっちゃんが焼酎をついでくれた。瓶底に白い薬草的なものが沈んでいて、おっちゃんらはそればかり飲んでいる。俺は焼酎は好きだが、これはへんなクセのある苦い酒で、非常にきつく、飲みづらかった。 からいカルチ鍋もなんとか平らげ、パンチャンも可能な限りおかわりし、ビールとマッコリを大量に飲み、消化器官が全面的に限界に達して全部で28000ウォン(2800円)。 「みなさんがいて、楽しかったです」 と言うと、おっちゃんたちは喜んで握手を求めてきた。 腹パンパンぐるじー。すぐ向かいの亀モテルにしといて正解だった。(2016年3月) |
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