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 激シブの薩摩半島南端をディープ&チープに歩く
(2003年5月1〜6日)

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【第4章】さらば涙の南薩最終日
 指宿でビビり、鹿児島で叫ぶ
 そして神戸(03.7.10)


指宿・東郷温泉にて

 (1)指宿でビビり、鹿児島で叫ぶ

 我々が泊まった元屋は、市営公共温泉「元湯」のすぐ裏手にあるのだが、いちおう元屋にも内湯がある。で、丘がまだ寝ているうちに起きて、ここの朝風呂へ。
 風呂は離れになっている。小さくて質素だが、木造の鄙びた風情の建物で、湯船は3〜4人サイズの四角いセメント造り。温泉がチョロチョロ注ぎ込まれ、同量が排水口へ消えてゆく。誰もいないせいもあるだろうが、やたらと落ち着く雰囲気だ。元湯がすぐ裏にあることを考えると、もしかするとここには一日数人程度しか入らないのではなかろうか。
 静か〜な湯に体を沈め、朝からま〜ったり。うーむ、ワシャここに住みたいわい。

 さて8時半を過ぎた頃、丘を部屋に残して、2kmほど離れたところにある鹿児島銀行へお金を下ろしに行く。もうサイフには80円くらいしか残っていないもんね。
 てくてく歩いて銀行に着き、意気揚揚とキャッシュコーナーでボタン操作に従ったところ・・・かくのごとき非情な文字が画面に浮かび上がった。

 お取り扱いできません

 なぬー! もう一度繰り返すが、やはり同じ。こここれはヤバイですよ・・・。
 あせりまくって近くにあった第二地銀でも試みるが、やはり同じ。しぇー、マズイぞぉ・・・。
 駅の観光案内所で、都銀のATMだけでもどっかに置いてないか尋ねたが、わからんとの答え。駅前のサラ金も覗いたが当然休み。
 あとは温泉街の大きなホテルに都銀のATMが設置されてるかどうかだけが頼みだ。海岸沿いを湯の浜方面へ速足で戻り、大きなホテルを何軒かのぞくが、ない。もう汗だくだ。

 温泉街の中心部に来ると、指宿温泉の目玉である砂蒸し会館「砂楽」の立派な建物があった。しかしここにもない。
 万策尽きた。鹿児島市まで行けば都銀があるが、そこまでの切符代がない。財布には80円だよいいトシこいて。
 やむをえん・・・元屋の主人に借りるしかないな。さすがに恥ずかしいのう・・・。

 とぼとぼと宿へ帰り、ご主人さまに事情を話す。当然の如く不審がられたが、宿代はツケといたうえで汽車賃も貸してくださるという。あ〜みっともないのうかたじけないのう・・・。
 最後に念のため、丘のサイフを点検した。夕べコンビニで全部使ったと本人は言っていたが・・・おや?

 1500円ほど残ってる〜〜(涙!)

 丘のおかげで、ご主人から汽車賃を借りることだけは免れた。多少なりともホッ。
 神戸に帰ったらすぐに宿代(本当は2人合わせて4200円のところを3500円にまけてくださった)を送ることを約束し、部屋をきれいに片づけて、元屋をあとにする。

 丘とともに指宿駅へ急ぎ、切符を買って西鹿児島行きの列車に乗り込んだ。ああサラバ指宿よ、本当は駅周辺の温泉銭湯にも浸かってから帰る予定だったんだが、それどころじゃなくなったよ・・・。

 やがて列車は西鹿児島駅に到着した。この旅で最も大きな駅に丘が驚いている。たしかにエスカレーターというものを見たのは、さんふらわあを降りてから初めてだ。
 来年あたり九州新幹線がここまで開通するらしく、西側から駅に直角に突っ込む形で、巨大な新幹線駅が建設中だ。

 都銀は鹿児島市の中心商業地「天文館」にある。ここから約1.5km。
 が、もしかしたらこの鹿児島最大の駅にATMくらいはあるかもしれないと考え、観光案内所で聞いてみた。だがこの駅周辺に都銀のATMはないという。そうかやはり天文館まで行かねばならんか。財布にはあと200円少々。
 「丘よ、路面電車で行きたいところだが、万が一また『お取り扱いできません』だった場合、今夜は公園で野宿になる。その時にパンも買えないと困るから、歩いて行こか」
 そんな話をしていた時、案内書にいた別の係員のおばさんが、こんなことをのたまった。

 「一昨日から3日間、都銀はすべて全国いっせいに休みで、キャッシュコーナーも閉まっていますよ」

 え、え、え、ええーー?

 「ということは天文館へ行っても、オカネ、下ろせないんですか?」
 「下ろせません」
 「じぇったい?」
 「絶対です」



 ・・・黄金週間をナメていた。365日×24時間コンビニでほとんどの品物が手に入る時代に、都銀がいっせいに休むにゃんて・・・地銀は開いてるのに・・・



 ・・・鹿児島銀行で下ろせなかったのも、そのせいだったのか・・・。





 万事休す。われ薩摩にて玉砕せり。
 脱力のあまり膝から崩れ落ち、視線は宙をさまよう。



 そのとき、さっきの係員がこう言った。
 「でも郵便局で下ろせるかもしれません」
 「ふにゃ?」
 「下ろせるところと下ろせないところがありますから、やってみないとわかりませんが」
 「ふにゃにゃにゃー!」

 幸い、観光案内所のすぐ横手に、鹿児島中央郵便局があった。中央である。ここでダメなら野宿決定だ。帰りのフェリーの予約もパァだ。
 緊張の面持ちで丘と2人、中央郵便局のキャッシュコーナーに侵入する。4つほど並んだATMが1つ空いている。そこへおずおずと進み寄り、カードを入れ、銀行名・支店名・金額を入力する。しかるのち2人並んで背筋を伸ばして目を閉じて合掌し、カシャカシャという機械音に身を委ねる。



 神様仏様〜。

















 そして・・・。



















 カターン。

















 金属のフタが開いた。
 そこには、この世のものとは思えぬ美しき1万円札が3枚、黄金色に輝いていた。

 ぃやったああぁーーーーっ

 いっせいに振り向く他の客たち。
 薄汚れたリュックを背負ったヒゲヅラの40男と、同じくリュックを背負ったヒョロヒョロの小学生が、郵便局のキャッシュコーナーで3万円を握り締め、涙を流しながら雄叫びを上げた瞬間だった。

 (2)そして神戸

 一件落着、財布はふくらんだ。もう恐いものなしだ。
 ちょうど12時だし、さっそく腹ごしらえ。ガイドブックに載っていた「三平らーめん」へ。西鹿児島駅から徒歩7〜8分。ここは「黒味噌ラーメン」が名物らしく、それを注文した。700円。
 やってきたラーメンは真っ黒けだった。豚骨スープに通常の味噌ラーメンの3倍の味噌を使っているが減塩の長期熟成味噌なので塩分ひかえめです、と書いた紙が壁に貼ってある。
 その真っ黒スープにたっぷりのゴマ、そして黒豚チャーシューが乗っている。いくらなんでも食ったことないぞこんなの。
 こってりと甘め。強烈な個性だし、十分にうまい。関西だとどうかわからんが、関東に上陸したら間違いなくブレイクすると思われる。

 腹もふくらんだ。よし、神戸に帰ろう。
 往路とは変えて、垂水までは桜島経由で戻ることにする。
 路面電車に乗って「水族館口」まで160円。子どもの日ということで丘はタダだった。路面電車の窓から鹿児島市の中心街・天文館周辺の街並みを眺める。丘は「人がいっぱいやなあ・・・」とつぶやいている。たしかに指宿とはえらい違いだ。
 電車を降りて桜島フェリー桟橋まで歩き、フェリーに乗る。2人で300円。展望デッキ最前のバルコニー状の部分の席を確保して、錦江湾クルーズのかぶりつき。いやー気持ちいい。桜島フェリーに乗るなら絶対この席だな。

 それにしてもだ。正面に噴煙を上げる桜島がドデーンと迫るこの鹿児島市というところは、たいがいすごい街だなあ。県庁所在地にこんなのがあるっていうのも・・・恐いよ、こいつ。

 大学生の頃に自転車で桜島を1周したことがある。
 あのときは小雨とともに大量の灰が降っていて、1周し終えたときには体も自転車も荷物も真っ黒けの黒味噌ラーメン状態だった。フェリーに乗って鹿児島に戻るのが恥ずかしかったほどだ。
 それに溶岩のアップダウンが連続して、走るのがかなりキツかった記憶がある。
 あのときは観光もクソもなかった。がむしゃらに走っただけだ。意味もなく、「この野郎、鹿児島まで走ってやるぞ」という気合だけだったので、鹿児島に着いても特に見たいものもない。いやおうなく目に付いたこの大地の怒りのシンボルにとりついて、コノヤロコノヤロと怒り狂って溶岩を乗り越えた。
 ぐるっとまわって降灰に攻められ真っ黒にされ、予想だにしなかった状態にとても驚いたが、同時になんとなく気が済んだような気がして、関西に戻ることにしたのだった。
 帰りは太ももの筋肉が2倍にふくらんでいたので、1日で往路の倍の距離を走るようなスピードで帰り着いた。

 さて20年後のフェリーもあのころと変わらず、真っ直ぐにその恐ろしげな活火山の麓を目指し、15分で桜島港に到着した。
 とりあえず垂水方面行きのバス便を調べたら、発車まで30数分しかない。しかもそれに乗り遅れたら、志布志からの大阪行きフェリーに間に合わないということがこの時点で判明した。
 丘はこの近くにある恐竜公園へ行きたがっていたのだが、時間がないので断念し、ミヤゲ物屋で時間をつぶしてバスに乗る。
 溶岩だらけの中を縫って走るバスからの景色はなかなかおもしろいが、丘は午前中の貧乏パニックで疲れたのか、すぐに寝てしまった。時間潰したあげく寝るだけなら、わざわざ桜島経由の遠回りをするこたぁなかったな・・・。

 桜島の溶岩が海を埋めて大隅半島と癒着した場所「桜島口」でバスを降り(ここまで大人410円)、15分待って、垂水港行きのバスに乗り換えた(桜島口から垂水港まで大人310円)。
 さらにそこから志布志行きのバスに乗り換える。1250円。志布志の町に入ってからもう一度乗り換え(バス運転手が「あっちのバスに乗り換えてくれ、このバスは港に行かない」と言ったので・・・なんかこの乗り換えはよくわからんかった)、結局桜島港から3時間かけてやっと5時すぎに志布志港へ着いた。

 午後6時、さんふらわあ出航。
 さらば鹿児島よヤシの木よ。
 すぐにまた例のダブルユレユレの風呂に入り、そのあとフンパツして夕食バイキング。大人1500円子ども1200円。腹よはちきれろとばかりに食いまくった。

 丘と甲板に出て、太平洋の風に吹かれる。4日前に大阪湾で感じた冷たい風に比べると、はるかに暖かい。
 船のたどった白波の向こう、太陽は九州のかなたに沈んでゆく。

 この日の万歩計・・・15389歩(約10km)

 翌5月6日朝7時40分、大阪南港に帰り着いた。船を下りてバスでフェリーターミナル、ニュートラムで住之江公園と戻り、そこでモーニングを食べるところを探したが見当たらず。
 5日ぶりの大阪は・・・とにかくそのうるささに驚いた。朝から大型トラックが走り回る国道沿いで、耳がどうにかなりそうな道路工事をやっている。その轟音に負けじと、どっかの政党がイラク戦争反対をマイクでがなりたてている。

 みんな狂っているのかと思うほどだった。

 やむなく、うるさい国道沿いのマクドナルドに入る。
 丘はスピードくじでコーラを当てたが、なぜかハンバーガーも飲み物も半分しか食べなかった。

 地下鉄と阪急電車を乗り継いで、5日前に来た道筋を神戸へ戻ったのは、午前10時前だった。
 丘はこの日、学校を休んで一日ゆっくりと過ごした。お互いに旅行の感想を述べ合うこともなく、昼過ぎまで一緒にボンヤリと寝転んで過ごした。

 おしまい・・・最後までありがとう!(03.7.10)
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