・・・★  勝村久司  ★・・・

第13回 春分の日

 「今日はみんなに、正直に本当のことを話そうと思っています。驚かないで聞いてください。実は……」

 そう言いながら、教卓を降り、教室の南向きの窓際に歩いていきます。そして、そこから見える太陽のほうを指さして、
「実は僕、半年前、あの太陽の向こう側にいました」
「そして僕はまた、半年後、あの太陽の向こう側に帰らなければならないのです」

 地球は1年間で太陽の周りを1周しますから、半年ごとに地球は太陽を中心に正反対の位置に来るわけです。そして1年たったらもとの場所に戻るのです。
 地球の公転半径は約1億5千万キロメートルですから、半年ごとに約3億キロメートルも私たちは宇宙を移動していることになります。星座の景色が大きく変わるはずです。

 そんな距離を移動するための地球の速度は秒速30キロメートルです。時速じゃないですよ。秒速です。1、2、3、4、5、と数える間に、もう150キロメートルも宇宙旅行をしてしまいました。
 それくらいのスピードで回ってないと太陽の引力に負けて太陽に落ちてしまうというわけです。

 4月になると新年度が始まります。「あれから1年たったなあ」は「あれから太陽の周りを1周して戻ってきたんだなあ」ということです。
 友達の誕生日には「おめでとう、これは、あなたが生まれてから太陽の周りを○周した記念です」なんて言いながらプレゼントを渡すのもよいかも知れません(ちなみに、そういう記念日にプレゼントを買う忠実さに欠けている点が、妻の私に対する不満の一つです)。
 お葬式なんかでも「故人は×才で亡くなられました」と言うよりも、「故人は太陽の周りを×周されました」って言ったら、1人くらいは「宇宙飛行士だったんですか」って勘違いするかも知れません。
 でも、忘れてしまっていますが、みんなたしかに宇宙を旅しているんですよね。

 イギリスのグリニッジ天文台(東経0度)が地球の座標の基準になっているように、宇宙の座標にも基準点があります。
 それは、春分の日に太陽のある方向なのです。黄経0度の位置です。
 そこから、90度ごとに夏至点、秋分点、冬至点があります。
 ですから、天文学的には春分の日が1年の始まりの日ですが、その日付は定まっていません。今年は3月21日ですが、来年は3月20日です。実は、閏年などがある加減で、太陽が黄経0度の位置に来る瞬間が毎年少しずつずれるのです。
 国民の祝日の中で、日付が年によって不規則に変わるのは、この春分の日と秋分の日だけです。

 春分の日には、ひととき空を見上げながら、宇宙を旅する地球を思い浮かべます。
 そして、まず「私はあと何周、宇宙旅行ができるだろうか」と考えた後、「今年1年はどんな旅をしようか」と思い巡らせるのです。


(月刊いのちジャーナル1999年4月号より)
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