・・・★  勝村久司  ★・・・

第15回 ダイヤモンドリング

 「もう15年ほど前の話になると思いますが、時任三郎という芸能人の婚約発表の記者会見で、『エンケージリングを見せて下さい』と言われて差し出した薬指には何カラットの宝石ではなく、輪ゴムが巻きつけてあるだけでした。『そうだ、愛はお金や指輪じゃないんだ』と感銘を受けたものでした」

 高校の地学の授業がこんなふうに始まると、生徒の目は妙に輝きます。
 「実は僕の嫁さんは高校2年の時の同級生でした」
 なんて言うと、「それからそれから」ともっと聞きたいような顔をしています。

 「僕も嫁さんに婚約指輪は買っていません。大事にしまっておくだけで満足する宝石より、もっと価値ある美しいものがあると思っていたからです。
 『ダイヤの指輪は買わないけれど、空に輝くダイヤモンドリングを見せてあげる』
 それが僕のプロポーズの言葉だったのかどうかは微妙なんですが、確かに僕はずっと前から、自分が結婚する人と一緒にダイヤモンドリングを見るのが夢でした」

 月が太陽を隠す「日食」というのが、半年に一度くらいの割合で地球のどこかで起こります。
 でもそれは、地球上のほんの一部だけで起こる現象です。地球上で、月と太陽がピッタリ重なって見える場所は限定されるのです。少しずれると太陽の一部だけが月に隠された部分日食になります。また、ピッタリ重なった場合でも、微妙な位置関係によって、月が太陽を完全に隠し切れずに太陽が周囲から細いドーナツ状にはみ出すとき(金環日食)と、月が太陽を完全に覆い隠し、昼間が急に夜になるとき(皆既日食)があります。

 ダイヤモンドリング現象を見ることができるのは、この昼間が急に夜になる皆既日食の始まりの数秒間と終わりの数秒間です。

 太陽がどんどん月に隠されていって、さあいよいよ完全になくなる、と思った瞬間、鋭い閃光がまるでダイヤのように輝きます。
 完全に隠したつもりが、月の表面はでこぼこなので、クレーターから一筋の光が洩れるのです。
 そして普段は太陽本体の光が強すぎて見えない「コロナ」が月の周囲に浮かび上がります。

 「クレーターから洩れた光のダイヤと、月の周囲に浮かぶコロナのリング」

 これが空に輝くダイヤモンドリングです。

 皆既日食はめったに起こりません。また、インド洋の海の上、アフリカの奥地などでったとしても簡単に行けません。

 しかし91年7月11日、ハワイ島で起こりました。これが婚約指輪の代わりにと考えていたハワイ旅行です。
 ところが、月が太陽を隠し始めていよいよ皆既になる、という頃に無情の雲が…。嫁さん曰く「これは帰りに免税店で指輪を買ってもらわなあかんな」。
 僕は「99年8月11日に今度はフランスであるからそれまで待って」と言いました。
 いよいよ今夏なのですが、今では「子どもが小さいから1人で行ってきてもいいよ」なんて言われています。

 なお、この授業をした後の生徒の感想の多くはこんな感じです。
(男子)「自分もプロポーズに使ってみたい」
(女子)「先生、ケチやなあ。指輪も買って、日食も連れて行ってあげな、奥さん可哀想や」


(月刊いのちジャーナル1999年6月号より)
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