・・・★  勝村久司  ★・・・

第3回 遥か遠くは遥か昔

 「もし、あなたの家にラブレターが届けられても、彼女が今その瞬間、あなたのことを愛してくれているんだ、と思い込んではいけません。あなたが手紙を読んでいるその瞬間に、彼女は別の男性と喫茶店で話をしながら、あなたに手紙を出したことを後悔しているかも知れないのです」

 高校の授業では、恋愛ネタの導入は生徒の目を妙に輝かせます。だけど、導入が終わったとみるやいきなり集中力が切れてしまう生徒もいて難しいものです。ずっとこんな話ばかりしていると皆よく聴いてくれるんでしょうが、そんなわけにもいきません。

 「彼女が手紙を書いた時とあなたが手紙を読んだ時には、時間差があります。情報は常に送られてくる間に過去のものとなってしまうのです。それどころか、情報が偽物である可能性もあります。ラブレターは誰かのいたずらかも知れないのです。ところで、今、太陽は元気でしょうか」
 と、窓の外を唐突に心配そうに眺めます。

 私たちの目に入ってくるものは、「光」による情報です。光は秒速30万kmという猛スピードです。1秒間に1周4万kmの地球を7周半もします。「音」が秒速340mなのと比べても、全く速さが違います。音は3秒間で1kmほどしか進みません。雷や打ち上げ花火で、光と音に時間差ができるのはそのためです。

 地球と太陽の平均距離は約1億5000万km。地球上ではほとんど瞬時に伝わっているかのように見える光の速さでも、太陽から地球までには500秒、つまり8分20秒もかかります。
 私たちの目に届いている太陽の映像は、常に、8分20秒前に太陽を出発した8分 秒昔の太陽の姿です。

 天文学で使う距離の単位に「光年」というのがあります。1光年は、光の速さで1年間に進んだ距離をさします。
 例えばオリオン座のベテルギウスという星は、地球から約540光年の距離にありますが、この星は晩年を迎えていて、いつ爆発してもおかしくないと思われています。今日もオリオン座は健在だな、と空を眺めていますが、実はもうベテルギウスは粉々になっているかも知れません。その映像が地球に届けられるのは爆発から540年経った後です。

 アンドロメダ銀河までの距離は約200万光年。アンドロメダ銀河を200万年前に出発した光がようやく今、地球に到着しています。その光を観測して天文学者が新しい発見をしたとしても、しょせん200万年昔の出来事なのです。
 この宇宙全体は約150億年前にビッグバンによってできたとされています。150億光年彼方の「宇宙の果て」を観測すれば、そこには150億年昔の「宇宙の始まり」の映像がうつし出されているでしょう。

 さまざまな情報が乱れ飛ぶ現代。夜空の星々もすべて光が届ける情報です。
 「もしラブレターをもらった彼女と共に無事肩を寄せ、満天の星空を見上げることができたなら、その時2人は宇宙のひろがりばかりでなく、宇宙の歴史をも一望していることになります」


(月刊いのちジャーナル1998年5月号より)
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