|
||
いやまーしかし。それにしてもしかし。 「日本最大の陰陽山」だそうです。山全体で性なるお姿を表現しておられると。見る角度によって、アソコがアンナコトになってたりコンナコトになってたりするという噂。見るのが怖い〜。 で、その名前「モッチョム」ていうのが、そのまんま女性器あるいは性交を意味する現地語ってアンタ。関西では三文字、関東では四文字・・・さすがに書けません。それを堂々と山の名前です。すごいなあ屋久島のヒトって。 ともかく拝みに行かねばな。山を見に行くのに緊張するなんて初体験だわ。 安房から島を時計回りに、車で30分ほど。麦生あたりにさしかかると、ありゃあ〜見えてきた見えてきた、夕日に照らされてモッチョム様が燦然と光り輝いておられます。思わず合掌、ありがたやありがたや。 さらに原集落あたりまで進むと、角度が変わる。あれま〜、わちゃちゃちゃ・・・。ちょっとスゴすぎるぞこれ。 (左)麦生あたりから・・・うーむ (右)原あたりから・・・うむむー さらに尾之間(おのあいだ)まで進むと、今度は天に突き上げる男根のイメージに変身してしまう、ということです。これね。 (左)尾之間から、左端の耳岳もふしぎな形 (右)モッチョム拡大 あードキドキした。それにしてもすごい岩峰だ。こんなもん登れるのか? とりあえずこの日は写真だけ収める。 翌々日の朝、その尊い山頂を極めに向かう。見た目通り、屋久島屈指のハードコースらしい。 登山口は千尋(せんひろ)の滝。このあたり一面は広大な照葉樹林に覆いつくされていて、屋久杉帯とはまた違った相の豊かな森が広がっている。 登山道は思ったより整備されていて、ルートを見失うことはない。ツワブキの黄色い花が咲き並ぶ急斜面を、木の根をつかんで激登りに次ぐ激登り。ハァハァ・・・いつまで続くの激登り。 林床のあちこちで赤い実をつけていたセンリョウが、登るにつれていつしかマンリョウに置き換わっている。センリョウとマンリョウって、こんなふうに棲み分けしてるのか。 (左)千尋の滝、一枚岩の花崗岩 (右)道というか木の根 やや傾斜が緩くなって、苔の美しい沢を渡る。屋久島天然水をすくってゴクゴク。そこからは谷筋に沿って登る。あたりに黄色い幹のシャラが増え、シダ類が繁茂する。 (左)照葉樹林帯の苔に覆われた沢 (右)シノブ類の激しく着生する大木 登り始めて1時間ほど、尾根に出るところで、すさまじく巨大な屋久杉が正面に立ち塞がる。万代杉だ。 風通しのいい尾根の小ピーク上に立っているためか着生植物も少なく、肌をむき出して威風堂々と聳えている。前日に見た縄文杉より太いかも。 (左)モッチョムー!と叫ぶ万代杉 (右)裏側に回ると、さらに激しくモッチョムー! 尾根から北側の山腹をまわり、また谷を渡って、さらに激登り。ぐいぐいいくと、ポンと展望が開ける。神山展望台と言われるところで、南面に海と、モッチョム岳の山頂が見えている。でもこの地点のほうがモッチョム山頂より30mくらい標高が高いらしい。 ここで小休止。登山口から2時間と少し。菓子パンを一つ食べる。 やっと山頂が見えた神山展望台 さて、もう一息・・・と思いきや、ここからがキツかった。 「ははは、ご冗談でしょう?」と言いたくなるような急斜面を滑り降りたかと思うと、「またまた〜それはないでしょう」と言いたくなるような急斜面をよじ登る。んでまた「きみ、いいかげんにしたまえ」と静かな怒りが湧いてきそうなガケをころがり落ちたかと思うと、「先生、モッチョム君が松本君をイジメてます」と告げ口したくなるようなガケを這い登る・・・この繰り返し。 (左)ほとんど垂直、もうヤメテ〜 (右)やがて背後に北西面の大岩壁が見えてくる だいぶ近づいたけど、まだ急降下&急登が続く やっとこさ頂上の巨石の下にたどり着き、裂け目から体をずり上げると、ポンと到着。登山口から3時間弱、荒々しいバトルだった。雪にはまったく出会わなかった。 そして予想されたとおり、この頂上からの360度の大絶景といったら。 両手を左右に広げ、左手の先から右手の先までの180度は、円弧を描いて広がる無限の大海原。振り返ると、この山を三方から遮断する大岩壁。この壮大さは、写真ではとうてい表現できない。 それにしても、すぐ足の下に見える海岸線とここが、1000メートル近い空間で隔てられているとはなぁ。 (左)ようやく最後の頂上岩 (右)裂け目にロープあり (左)頂上とmyリュック (右)てっぺん石に座って940m下を見る (左)東の絶壁 (右)西側には頂上より一段下に岩塔がある 俺は汗まみれでゼイゼイ言いながらてっぺん岩に立ち上がったとき、無性に大声で叫びたい衝動に駆られた。こんなことはめったにない。 「わーっ!」と叫んだ。しかし山頂で「わーっ!」はないだろう。かといって今どき「ヤッホー」もな。やはりここはこう叫ぶべきだろう。 「モッチョムーー!」 その直後、背後でガサゴソと音がする。びっくりして耳を澄ますと、たしかに誰かが登ってくる音だ。しまった、「モッチョムー」などと叫ぶべきではなかった! はずかしい・・・。 やがて、俺と同年輩の男がよじ登ってきた。彼はこう言った。 「わっ、人がいるとは思わなかった」 俺の叫びが本当に聞こえなかったのか、それとも心中を慮って聞こえなかったフリをしてくれたのかは知るよしもない。男は京都から来たと言った。 俺は写真を撮ろうと思ってデジカメを取り出したが、その瞬間、指がひっかかって電池穴が開き、2本の電池が頂上岩の前方に落ちてしまった。幸いにも電池は岩の下の茂みで止まり、ご丁寧にもそこへ下りるロープが設置されている。俺はホッとして、ロープをつかんで降下した。 するとそこには小さな祠があった。屋久島では麓の村々で、その村の守り神を山から連れてくる「岳参り」という風習があったという。これはその祠らしい。 (左)電池に導かれた祠、南を向いている (右)本土の神様とは異なるお姿 菓子パンを一つ食べ、京都人に「お先に」と言って頂上を後にする。 再び激しい急登・急降下を繰り返しながら、来た道を戻る。10分くらい経って振り返ると、遠くの頂上からさっきの京都人がようやく降りてくるのが見えた。 さらにずんずん降りていると、背後から「ザッ、ザッ」と足音が聞こえてくる。ゲッ、あの京都人もう追いついて来たのかよ! ここで俺の心に、先に頂上を極めた人間としての無意味なプライドが芽生えた。抜かれてなるものか。俺は歩みを速めた。ぐえ〜、き、きつい・・・。 そのとき、「モッチョム太郎」の標識が見えた。登りの時には見逃していたが、モッチョム太郎は万代杉よりさらに巨大な屋久杉だ。登山道を少し外れた樹林の中に立っている。 そこへ京都人が追いついてきたので、一緒にモッチョム太郎を見に行く。太郎は万代杉と違って着生植物を全身に装いながら、ズドーンと直立している。根っこにまたがって写真を撮ったが、屋久杉を撮るたびに、写真撮影の空しさを感じさせられる。このバカでかさは収録・再現不可能だ。 (左)根っこにまたがって見上げるモッチョム太郎 (右)これは別の木、必死なお姿 ここでも俺は京都人に「お先に」と声をかけて、先に歩き出した。今度は詰められないぞ。 懸命に下っていると、しばらくしてまた「ザッ、ザッ」が背後から迫ってきた。テメー、化け物か! 俺はもう走った。木の根の絡まりあった急斜面を走るのは非常に危ない。何度か足をとられてバランスを崩したが、俺にはもう化け物京都人と闘うしか道は残されていなかった。屋久島の大自然なんかを感じている余裕はない。 やがて、登山口にポンと出た。すぐあとから京都人も出てきた。お互い全身から湯気を立たせながら、「お疲れ様でした」・・・わしらナニやっとんや? 結局、山頂から1時間半で下りてきた。ちなみにガイド本などでは、歩行時間は登り3時間20分、下り2時間40分となっている。 (左)千尋の滝駐車場をウロつくヤクザル (右)千尋の滝駐車場から見上げるモッチョム山頂 ついでながら、麓の尾之間にある「大門」という中華料理店では「モッチョムラーメン」なるものあり。尾之間三山を表す豚の角煮を、広大な照葉樹林を表すニラがとりまく逸品だ。屋久町役場の近く。昼の営業時間はチェックしてないけど、夕方は5時半から。 下山後は尾之間温泉も最高。 (05.12.10) (左)中華大門のモッチョムラーメン (右)尾之間三山、左から割石岳・耳岳・モッチョム岳 |
||
「ふしぎ山」トップ<ホーム |