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2〜3日目◆西表島:水上ロデオの原始島 八重山最大の島・西表へ行く航路は、東部の大原行きと、西部の上原行きの二つがある。名前が似ているのでややこしい。 西表島の大部分は未開のジャングルだが、その真ん中を徒歩で抜ける縦断コースがあるらしいので、それを西の上原から東の大原へ踏破してやろうという計画だ。 上原行きの便は今朝は欠航になっていたけど、2時40分のは無事に出航した。上原まで50分。竹富島でオリオンを飲み、石垣島に戻ってもオリオン飲んだせいか、なんか眠い。ちょっと寝ようかな。 船内はガラ空き。デッキ席にも魅かれたが、とりあえず寝るために船室に入った。 3人掛けに横になって寝ようとしたが、出航してしばらくすると、体が宙に浮いた。その直後、座席にドーンと叩きつけられる。次の瞬間また体が宙に浮き、ドーンと叩きつけられる。とても寝ていられない。 起き上がってみると、船は次々に迫り来る大波に船首から乗り上げては、波の谷間に墜落して行くことを繰り返している。そのたびに「ザバッシャーッ!」とものすごい音がする。窓の外は波しぶき一色で何も見えない。 まともに座っていることもできず、前の座席の背中にある手すりを両手でつかみ、半立ち状態で膝のクッションを使いながら、ロデオのように波乗りをし続ける。そうしないと間違いなく吐いてしまう。妊娠してる人は確実に流産だろう。 前の席にいる姉を見ると、全身を激しく上下動させながらゲラゲラ笑っている。狂ったらしい。 操縦士は波の隙間を突いて進むべく必死で舵を高速回転させているが、気休め程度の効果しかない。 そういや、デッキ席にも数人座っていたようだが、あの人たちはいったいどうなっているのだろうか。ただで済むとは思われないが・・・。 耐えること50分。ようやく上原港に着いた。 デッキに出ると、そこにいた数人の無残な姿が目に飛び込んできた。 新婚旅行だろうか、大きなトランクをひいた若いカップルが全身ズブ濡れでヨロヨロと船から下りていく。おそらく50分間、海水を頭からバケツ5000杯分くらいは浴びせかけられたに違いない。かわいそうに女の人は長い髪を顔面や服に貼り付かせ、全身から塩水をしたたらせて、溺死寸前で救助された人のような姿になっている。自分の身に起きた出来事が未だに信じられないような、うつろな目つきだ。背中に貼りついたワンピースが透け、ブラやパンティーの線が露わになっているのが痛々しい。 デッキの人数が一人減っていても不思議はない揺れだった。この船会社の人は、こうなることがわかってたはずだろう? なのに一言の注意もなしとはね。そして着いたあとも、ズブ濡れの人たちを当たり前のように船から送り出している・・・まったくもって信じ難い。 本土の船でこれをやったら恐らく裁判沙汰だろう。 でも、ここはイリオモテ。これがイリオモテなのだと思うほかない。イリオモテ・・・恐るべし・・・。 ともあれ西表島に着いた。大きな島だが人口は少なく、小さな竹富島を中心とする竹富町に所属している。上原にも人家がポツポツあるだけで、店はスーパー1軒のみ。 そのスーパーの向かいにある民宿カンピラ荘にチェックイン。素泊まり3150円(共同シャワー)。 西表に来たのはいいが、午後4時、中途半端な時間だ。 近くの星砂の浜へでも行こうかと思ったが、バス便が異様に少なく、しかもその最終便にギリギリ乗り遅れてしまった。ははは、もうどこにも行けないや。 仕方なく宿の近所を散歩。牛やヤギが放牧されている。 適当な放牧日が暮れてから、近くの「たまご」という食堂でメシを食い、またオリオン漬けになって、この日は終わった。 * * * * * 翌朝一番のバスで浦内川河口へ向かった。 西表島縦断には役場か森林管理事務所への届出がいるらしい。前日に森林管理事務所に電話してコース状況を聞いたら、秋の台風でかなり荒れているが、なんとか行けるでしょうとのことだった。 縦断コースは、まず浦内(うらうち)川河口から遊覧船で30分ほど川を遡り、中流の軍艦島というところへ行く(河口〜軍艦島は道がない)。そこから歩いて40〜50分ほど川を遡るとカンピレーの滝に至り、その奥から縦断コースが始まるとのこと。カンピレーから東海岸の大原まで、シコシコ歩いて8時間ほどかかるらしい。 で翌朝一番のバスに乗ったわけだが、このバスが上原を出るのがなんと9:28。お、遅すぎるって。通勤通学っちゅうもんは存在せんのかこの島は! 浦内川河口に着いたのが9:45、次の遊覧船の出航は10:00。縦断届けは遊覧船乗り場の窓口で出すようにとのことだったが、窓口で聞いたら案の定、「今から一日で縦断するのはちょっと無理だと思います」。 でしょうね。一日で縦断するには早朝に船をチャーターするか、せめて9:00始発の遊覧船に乗らないと、だとさ。 でもね、朝一番のバスが9:45分なのよね。タクシーは上原に1台のみ、すでに他客が予約済みだったのね。かといって浦内川周辺には宿もないのよね。 鍛え抜かれた黄金の足を持つ俺としては、ジャングルの縦断なんぞに何の不安もない。だが交通機関のオキナワタイムっぷりには恐怖を感じる。 つーわけで、あっさりと縦断は断念。とりあえず軍艦島まで行き、最終バス(午後3:30、ええかげんにせえ!)に間に合うギリギリの船便(2:30)まで奥地をウロつくことにした。 遊覧船は10時出航、マングローブ帯を30分ほど遡る。同乗者20人あまり。 浦内川は小さな島の川とは思えない大河っぷり。しかも軍艦島まで遡っても標高は1メートルも上がらず、流れはほとんどない。だから満ち潮のときは川が逆流する。 ![]() (左)遊覧船乗り場、この川の広さ! (右)え〜左に見えますのが・・・ 川岸はほとんどマングローブ林軍艦島で川幅は急に細くなり、川らしくなる。ここで船を下りた人々はみな、マリユドゥの滝からカンピレーの滝へと続くハイキングコースを歩く。そこを歩く以外にすることはない。 最後尾から歩き始めたが、しばらく歩いたところで先行グループが集まって、リーダーらしき小柄なおじさんの話を聞いている。 その小柄なおじさんの顔を見たら、岩崎元郎氏だった。山の世界の有名人ね。野口健の師匠でもあり、『新・日本百名山』なんつー本も書いてて、現在は中高年の登山ブームの元締めみたいな位置におさまってNHKの山番組なんかにもよく出てくるらしい。 全然興味がないので、脇をスルーする。 道は整備されてて何の問題もなく歩ける。あたりは亜熱帯植物のオンパレードでじつに楽しい。ホームセンターなんかに並んでいる観葉植物だらけ。 サキシマスオウノキの板根、まるでゾウ ![]() (左)展望台からマリユドゥ(丸い淀み)の滝 (右)拡大。滝へ下りる道は通行禁止だった ![]() (左)ユッカか何かにからみつかれた木 (右)琉球政府とな 45分ほど歩いて、ハイキングコースの終着点、カンピレーの滝に到着。 緩い傾斜の岩盤を川が流れ下る広々とした場所で、滝としてはたいしたことないが、狭いジャングルを歩いてきたぶん秘境感にひたることができる。 岩が軟らかいため、石の回転でできるポットホール(甌穴)がたくさんある。そこには珍しいカエルやエビなどがいろいろ住んでいるので、生物の好きな人なら飽きないだろう。 いろいろ観察しながらおにぎりを食った。 ![]() (左)カンピレーの滝 (右)上流側から。広い岩盤でカップルもお弁当食い放題 ![]() (左)ポットホール、もっと大きいのもある (右)もぐら叩きか何か? ![]() (左)こうなると気色悪い (右)岩が軟らかいせいで、こんなことに・・・ ![]() (左)カエルの卵? (右)透明オタマジャクシ、中央で左下を向いている。両目と内臓が金色で、尾は右上に伸びる この先に行く人はほとんどいないが、俺と姉はさらに進む。岩場を越え、川の左側をへづって支流を渡ると、滝の奥に出る。ここから上流3kmちょっとの間、川はまた平坦になってほとんど流れなくなる。ナーユドゥ(長い淀み)だ。 その左側に、縦断コースの入口を示す標識がある。縦断路はナーユドゥに沿って奥地へと延びている。 カンピレー上流、ここからナーユドゥショッキングピンク色のトンボを見つけて興奮状態の姉をここに残し、俺は縦断路へ。1時間足らずで戻って来なければならないが、とりあえず様子を見たい。 カンピレーまでのハイキングコースとは打って変わって、山慣れた人でなければ不安になって引き返すであろう程度の細道。踏み跡はわりとしっかりしていて迷いそうな感じはないが、台風による倒木が多くてすんなりとは進めない。 でも、なんだかウキウキしている俺。もうこういうところでないと楽しめない体になってしまったのか。 ![]() (左)縦断路、ほどよく荒れている (右)なんかもうヤケクソの木 ![]() (左)台風で折れた大木が道をふさぐ (右)縦断路から見たナーユドゥ 800mほど進んだあたりで、ルートは泥沼化してきた。ズボンまでグジュグジュになりそうだったので、ここで引き返すことにした。このルートは登山靴よりも長靴がよさそうだ。 軍艦島に戻る途中、修学旅行の高校生集団に遭遇した。女の子はハイヒールの子もおり、展望台からマリユドゥの滝を見て「なんや、たいしたことないやーん」と大阪弁で言っている。 率直な感想に感動した。俺は彼女に賛成する。滝そのものとしては事実、マリユドゥもカンピレーも全然たいしたことはない。 では俺がなぜここへ来たのかというと、西表島という島が持つ特別な意味を認識しており、かつ現在それに興味を持っているからだ。だからロデオの船や不便な路線バスを使ってでも来るし、チンケな滝にも神秘性を感じるし、奥地の荒れた道を歩いても楽しいわけだ。 だが彼女は違う。こんなところへ来るのにハイヒールを履いていることからも、彼女が西表になど何の興味も持っていないことは明らかだ。 なのに「集団行動」の論理を強いられて山道を歩かされ、たいしたことのない滝を見させられる。きっと彼女の脳には、「西表島に行った。たいしたことなかった。疲れた」との記憶がインプットされたことだろう。残念なことだ。 わが姉は、引率の教師(この人もまったく西表に関心なさそうだった)を見つけ、 「修学旅行にハイヒール履いて来ていいんですか?」と尋ねた。教師は力なく笑いながら、 「なんか勘違いしてるみたいで・・・」と言う。 勘違いしてるのはオマエやっちゅーの。それでまさか「最近の子は・・・」とか「最近の親は・・・」なんて言ってないやろね、「先生」。 帰りの遊覧船も、この生徒たちと同じ船になった。俺の後ろの席に座っていた男子生徒に、 「大阪? 俺も大阪出身なんやけど、どこの高校?」と聞いたら、「枚方〇〇高校」だと。俺の出身高校と同じ学区のお隣さんやんか。ははは・・・。 河口に着いたら、高校生たちは団体バスに詰め込まれ、さっさとどこかへ去っていった。 残された俺と姉はバスが来るまでの30分、浦内川河口域の雄大なマングローブ地帯をじっくり眺める。 ![]() (左)浦内川河口、左の分流の湿地帯 (右)右の本流方面 ![]() ヤエヤマヒルギ中心のマングローブ ![]() (左)ヤエヤマヒルギの気根 (右)本州では見られない風景 3:30のバスに乗り、西表島をぐるっと半周して、ちょうど1時間で大原に着いた。本当は徒歩縦断でたどり着く予定だったけど。 民宿やまねこにチェックイン。素泊まり2000円(共同シャワー)てあんた。 ![]() (左)民宿やまねこ、値段のわりに清潔でナイスな宿 (右)満八食堂 シャワーをあびてから、近くの満八食堂へ晩めしを食いに行った。 この店、ガラッパチみたいな店名とは打って変わって、感動的にうまくて、しかも料理がいちいち洗練されている。聞けば大将は数年前までフレンチのシェフだったそうだが、島そばをやっていた母親が体力の限界にきたため、帰ってきてあとを継いだそうな。 値段も安いし、ここはオススメだ。西表島・大原集落の満八食堂をあなたの脳裏にインプットすべし。娘のさくらちゃんがビールを運んでくれるのもよい。 ![]() (左)足テビチとろとろ野菜煮 (右)プリプリえびまん ![]() (左)さくらちゃん、ハンパでないかわいさ (右)仕事がないときは柱に登っている 宿に戻り、テラスでビールを飲みながら、他客(50代男性)と雑談。この宿には常連客が多いようで、この人も東京から年に1〜2回は来ているという。ヤマネコ探しなのかな? 「いや、そういうわけでもないけど、まあ気分転換に。でもヤマネコも7回ほど探しに行きました」 「ほう。で、見つかりましたか?」 「最初の2回だけ。あとはダメ」 ビギナーズラックが2回も続き、病み付きになって西表に通うようになったのだろう。しかし幸運はそうそう訪れない。 男性が「ホタルがいますよ。ほら、そこに」と言うので草むらを見たら、たしかにホタルだ。ゲンジボタルのように大きくはないが、よく見るとあちこちにいる。 12月の夜、Tシャツ1枚でテラスでビールを飲みながらホタル観賞ね・・・遠くからここに通う人の気持ちは十分理解できる。本州の都会と比べたら、ここは夢のようなところだ。 翌朝7:50の船で、大原港から西表島を離れた。予定した縦断コースを歩けずやや心残りだが、またいつかの楽しみにおいておこう。 |
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